東京都の首都直下地震などの被害想定では、数値化しがたいものも含め、あらゆる被害が分析された。高層ビルなどでの長周期地震動の影響なども初めて盛り込まれたほか、エレベーターに閉じ込められるケースなども検討している。都会に潜む“危険”とは-。
■セール会場 出口に殺到
満員電車のように人でごった返すデパートの催事場。普段より客数が増える「大売り出し」の会場を直下地震が襲ったら…。最も懸念されるのが、出口や通路に人が一気に殺到することだ。兵庫県明石市で平成13年、花火大会会場と最寄り駅を結ぶ歩道橋上に見物客が殺到。11人が死亡、247人が負傷する惨事となったのは記憶に新しい。
東日本大震災では、東京の九段会館で天井が崩落、2人が死亡した。各地の公共施設でも天井裏から石膏(せっこう)ボードなどをつり下げた「つり天井」の崩落事故が相次いだ。想定でもこうした天井落下で多数の死傷者が出る可能性を指摘した。
■地下街 階段で死傷者も
東京、渋谷、新宿、池袋などターミナル駅周辺に広がる地下街。
想定では「阪神・淡路大震災など過去の地震で、地下街での施設被害は発生していない」とみるが、人が階段などに殺到して死傷者が出る可能性にも言及している。
想定は、都内4ターミナル駅地下街の来場者をピーク時で1時間当たり約5万5千人と試算。地震発生でこのうち2万人あまりが階段に殺到し、死者35人、負傷者793人に上る可能性があるとしている。
■エレベーター 閉じ込め
都会に林立する高層ビル群にも、首都直下地震時の危険がひそむ。
地震で安全装置が作動したり停電が起きたりすれば、エレベーターが緊急停止し閉じ込められる可能性がある。23区内では約6980台、多摩地区では約500台のエレベーターが閉じ込めにつながり得ると見込まれる。
また、地震で発生するゆっくりとした揺れ「長周期地震動」と、個々の高層ビルなどが持つ構造的に揺れやすい周期「固有周期」が共振することで、固定されていない家具や機器が動いたり物が落ちたりして、人的被害が発生する可能性もある。
都は参考値として、こうした要因で東京湾北部地震(冬の午後6時、風速8メートル)では屋内で254人が死亡、6211人が負傷すると見込んでいる。
■水洗トイレ 衛生の悪化
震災で道路が寸断され、渋滞の長い車列が救急車による緊急搬送を妨げる可能性もある。病院には次々と負傷者が運び込まれて機能が低下。こうした影響で死者が増大する恐れがある。
死者が増えれば、遺体の火葬や埋葬も滞る。
水道管が被害を受ければ水洗トイレが使えず、避難所などでは衛生環境が悪化。ゴミ集積場からハエなどの大量発生も予想され、感染症が蔓延(まんえん)する懸念もある。殺虫剤の準備など防疫対策が急務となる。
■治安 混乱に乗じ空き巣
倒壊家屋からの盗難など、一時的な治安悪化も懸念される。
東日本大震災では被災者の冷静さや忍耐強さが各国から称賛されたが、それでも警戒区域内にあるコンビニのATM(現金自動預払機)が破壊され現金が盗まれた。空き巣や店舗荒らしの被害も起きており、首都直下地震でも混乱に乗じた犯罪が起こる可能性もある。
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